放蕩する惰性

取るに足らない調べ物の供養など

方向指示器(ウィンカー)

カミュの『ペスト』の訳読で、ウィンカーなるものを初めて知った。いや、ウィンカーという言葉は一度くらい聞いたことはあったのだろう。なんとなく聞き覚えがあった。だが、少なくともそれが何なのかは知らなかった。

 

だからウィンカーを出す車を、ウィンカーを出す車として、今日初めて認識した。視界には入っていただろうが認識していなかった光景が突然命名された。

 

車のライトは暗い時に前方を照らすだけだと思っていた。角を曲がる時に点滅させたり、ブレーキを踏むとつくだなんて!

 

 

 "Il est distrait au volant de son auto et laisse souvent ses flèches de direction levées, même après qu’il a effectué son tournant."

なんと、この箇所が何を言っているのかがわからなかったのだ。どうかしている。

 

自分に関係の無いことをシャットアウトしてしまう悪い癖には薄々気が付いていた。

だからってウィンカーも知らないくせにピルカとか膿瘍固定とか調べてる場合じゃない。事実関係を確認して、『ペスト』の日本語訳における誤訳を指摘している場合じゃない。そんなことをする人間がウィンカーを知らないのは、傍から見ればたいそう滑稽だろう。

 

 

ワインで学ぶ古代文明

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ワインの裏ラベル(裏エチケット?)には時々こういう文書が書いてある。

これはチリのワイン、Casa del Cerro。直訳すると丘の家house of the hill。

 

製造元はワインメーカーであり、ゲストハウスでもあるらしい。へえ素敵。

そして読み進めると、surrounded by the traditional pircaの部分にひっかかる。ぴるかってなんだ?

 

https://es.m.wikipedia.org/wiki/Pirca

スペイン語でだけWikipediaあった。

要は石垣のことらしい。モルタルを使わないでつくられてて、1532年のインカ帝国征服以前から今のアルゼンチンあたりでは作られており(アンデス文明)、征服後に全域に広まった。

家囲ったり、畑囲ったり、道沿いにつくったり、家畜囲ったり、とにかく色々使われてたらしい。

自然の石をなんか上手いことはめ込むからモルタルとかの補強なくても大丈夫なんだって。

 

【追記】

https://wsommelier.com/category/1331/

ピルカという名前のワインの説明に、もっと詳しく、しかも日本語で載っていた。中途半端な情報しか得られなかった愚かな努力を嘆く。

藁と泥を使っていて...みたいな部分は何をソースにしているんだろう。インターネットでpircaと調べてもそういう説明は多分出てこなかったので、気になった。

 

スペイン語をフランス語の知識で無理やり読み、わからない所(=ほとんど)をGoogle翻訳で英訳して理解するのはだいぶん無理がある。

文の構造は何となく分かるから西英、西日の辞書を買えばなんとか読める気もする。

 

膿瘍固定って何ぞや。

 

カミュ『ペスト』には膿瘍固定という聞き慣れない言葉が登場する。医師のリウーがペストに罹って苦しむアパルトマンの管理人を治療する場面だ。

膿瘍固定と日本語で検索かけてもヒットしない(よね?)。まあ正直、この言葉の意味がわからなくてもこの物語の本筋の理解には全く関係が無い。

が、何だか気になったので調べた。

 

リウーは膿瘍固定を試みた。は原文のフランス語だとRieux tanta un abcès de fixation.となっている。

abcèsが腫瘍とか膿瘍で、fixationは文字通り固定という意味。ちなみにabcès de fixation で仏語辞書ひいても膿瘍固定としか出てこない。

 

さて、abcès de fixationでWeb検索かけると、やったあ!Wikipediaがヒットする!

わあ!フランス語とエスペラントの2言語でしか記事が無い!

https://fr.m.wikipedia.org/wiki/Abcès_artificiel

エスペラントは読めないので、ポーランド人の眼科医であるザメンホフに思いを馳せつつフランス語で読む。

あとこのサイトも参照して、以下にまとめた。

https://medecine-integree.com/abces-de-fixation/

 

20世紀の初め頃、免疫障害や感染症の症状に対して行われていた治療法。症状の広がりを抑え、それを局所化するために、テレビン油か放線菌の1種(正直よくわからない。マイコバクテリウム?まあ、とにかくなんかの菌)を皮下注射して、腫瘍を意図的につくる。でも意味無いし合併症もおこるしで今は使われてないみたい。

 

『ペスト』本文ではリウーはテレビン油を使っていて、治療の痛みに苦しむ管理人が描写される。意味無いのにねー。

 

 

 

 

カミュ『ペスト』にてJean Tarrouの滞在するホテル

 

カミュの『ペスト』にて、独特のリズムのある口調で話す登場人物、Jean Tarrouは"un grand hôtel du cantre"(原文より)、「中央のある大ホテル」(宮崎訳)に暮らしている。

 

このホテルとはオラン市に在ったHôtel continental だと思われる。以下を参照。

https://brill.com/previewpdf/book/edcoll/9789004302679/B9789004302679-s016.xml

(でも、おそらくホテルコンチネンタル、フランス語でvraisemblablement l'hôtel continental という表現。中心地でその時代に建っていた大きなホテルである以外にも根拠はあるのかわからない。)

 

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一番左の建物がそれである。画像の右下を占める、木に囲まれた土地はペストにも登場(ネズミが死んでいた場所として)するLa Place d'armes、そして現在はPlace Premier November 1954と名を変えている。

旧名称で呼ばれていた時代、カミュはしばしばここを訪れていたようだ。

物語の登場人物であるメルシエ氏が、そこの鼠害対策課で課長として働くオラン市役所もそばにある。

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こちらには通りの名称も書かれているが、現在の地図上にはどちらの名も見受けられない。

 

ところで、部屋数や定食(というか決められたコース?)、電話の用意があることなどを列挙する、ホテルの絵の下の文字列にChambre noireとある。日本語にすれば暗室となるが、どういうことだろう。写真の現像に使うくらいしか用途が思い浮かばない。

 

あと、ざっと調べただけではこのホテルの正確な場所もわからなかった(Googleマップ上でも方向音痴だから)。広場の4つ角のどこかひとつから、通りを挟んだところにあることまではわかったのだが。取り急ぎ、以上に調べたことを書き留めた。

 

【追記】

①Chambre noirは画像とか映像とかを鑑賞出来る部屋のことなんじゃないの、と教えてもらった。

真っ先に写真の現像を思い浮かべてしまったから、その発想は持てなかった。

 

②ホテルの位置を特定してもらった。f:id:jenemensjamais:20200617202718j:image

Sidi Glahimの像の向きから、多分ここだろうと。

わかったからって何になるということも無いが、嬉しいものだ。

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航空写真だとこのへん。